体力判定ツアーの歩き方

体力判定ツアーでは、登山上級レベルのツアーに参加するための「登山パスポート(体力)」、または76歳以上の方が登山ツアーに参加するための登山中級レベルの体力の判定を行っております。

登山上級ツアーで特に必要な体力について、速いペースなど負荷がかかった状況で安全に歩行できるかなどを拝見し、あわせてより客観的に評価するために疲労度などを測定します。

私は2016年から体力判定ツアーにてガイド(判定員)を務めております。

体力判定ツアーには様々なウワサが多くあります。

  • 教官が厳しい
  • 途中から走らされる
  • 荷物を細かくチェックされる
  • 伴走しながら歩き方をじっくり見られる
  • ストックを突く暇もない

これらはすべて噂レベルです。

「正確な情報がなく、参加するまで正直不安だった。」という参加者の方々から多くのお声をいただき、参加者の皆様がより快適かつ有意義にツアーに参加できるよう、詳細を以下にとりまとめました。

皆さんの不安払拭の一助となればと思っています。

体力判定ツアーでの一幕

◆そもそも体力判定ツアーとは?

対象者

  • 登山上級レベルを目指す方(全年齢)
  • 76歳以上で登山中級レベルのツアーに参加希望の方

体力判定ツアーは、現在2つのカテゴリがあります。

レベル別の判定ツアー

  • 登山上級を目指す方向けの体力判定ツアー
  • 76歳以上の方が登山中級を目指す方向けの体力判定ツアー

なお、どちらのツアーもどなたでも参加可能で、繰り返し参加することができます。最近では速いペースで歩くツアーがないという理由からトレーニング目的で参加される方もいらっしゃいます。

登山上級レベルは、トムラウシ、幌尻岳、大朝日連峰、飯豊連峰、裏銀座縦走、高妻山、空木岳、聖岳などが対象となっています。

具体的な登山ツアーレベルは以下のページをご参照ください。

https://www.club-t.com/sp/theme/sports/aruku/equipment

◆なぜ体力判定ツアーがはじまったのか?

●登山ツアーでこんな経験ありませんか?

  • 山小屋の夕食時間に間に合わず叱られた
  • 下山が遅れ予定していたお風呂に入れなかった
  • リタイア者の対応で、途中から添乗員さんがいなくなった

これからの原因の多くは、一部登山者の体力不足によるペースダウン、またはトラブル発生があったためと思われます。

●きっかけは、2009年のトムラウシ遭難事故

登山上級の山々は、ガイドの力量だけではどうしようもなく、皆様ご自身の一定程度の体力が必要な山々ばかりです。登山上級レベルの山々は、標高差も大きく、山小屋などのインフラも十分ではなく、エスケープするにも距離があり容易に撤退できない山ばかりです。

皆様が厳しい山を歩くことができる体力があるのか、また登山中トラブルなく歩くことができるか、またはトラブルが起こったとしても対処が可能かというところを見させていただいております。

判定ツアーは、参加される皆様が快適に雄大な山のツアーに参加できるようにスタートいたしました。本ツアー導入によって、登山上級レベルの登頂率が上がったという話も実際にあります。

●高齢者の遭難事故防止が目的

本ツアーが始まる前の登山ツアーでは76歳前後の方々のトラブルが散見されておりました。後期高齢者となる76歳前後は、体力的な個人差が非常に大きい年齢です。問題なくツアーに参加できる方もいれば、一般のツアーでは厳しいと思われる方もいらっしゃいます。体力と同様に体幹バランスなどの問題も出てきます。

本ツアーを導入することで、事故やケガの防止につながっております。

また本来の趣旨は、目標を持っていただき健康寿命を伸ばして、体力的に無理のない範囲で好きな山にみんなと行き、生き生きとした登山人生を過ごしていただくことです。

◆合否の基準

ツアー中、ガイドのペースについて来られるかが合否の判断基準のひとつです。コースタイム等は一切考慮に入れておりません。

天候など当日のコンディションによってペースは調整いたしますが、最初から最後までガイドと一緒に歩けるかどうか。

登山上級レベルの判定ツアーの実際のペースは、コースタイム×0.8~0.9倍で歩きます。休憩も30~60分ごとに適宜はさんでいきます。

このペースは、実際の上級レベル登山ツアーでも、午後から雷雨となる場合などではありうるペースです。

76歳以上向けの中級レベルツアーは概ねコースタイムと同等程度です。

これらは普段コースタイムと同等で歩くことができる方々であれば問題なく合格できる内容となっております。

また、登山中に心拍数や血中酸素飽和濃度なども計測し、ご自身の体力をより客観的に知っていただく工夫なども導入しております。

あわせて判定ツアー中に、装備や歩き方について、質問があればアドバイスや、ガイドとして気になることがあればフィードバックなども適宜行っております。

◆実施ルート

これまでに実施した主なコースは以下の通りです。

  • 秩父大霧山
  • 丹沢大山
  • 箱根明神ヶ岳
  • 北高尾山稜
  • 南高尾山稜
  • 飯能アルプス
  • 青梅丘陵
  • 賤ヶ岳(滋賀県)

どのコースも距離10km以上、標高差約1000mのルートです。

負荷はどのコースも同等ですが、涼しい時期の参加をおすすめします。

◆推奨装備

基本的には「登山の日帰り装備一式」をお持ちください。全身トレイルラン装備での参加は現在のところNGです。

その中でも以下の装備などが特におすすめです。

  • 軽量のザック
  • 軽量の登山靴
  • ハイドレーション(2L以上)
  • トレッキングポール(三段折り畳み式)
  • 行動食:軽くて食べやすいもの、ゼリー、小さなおにぎり、パン、カットフルーツ、アミノバイタルなど
  • 常備薬(あしつりの薬など)

◆よくある質問集

Q: どれくらいのペースで歩くの?

A: コースタイムは考慮せず、ガイドのペースに従います。

登山上級レベルは、コースタイムの0.8~0.9倍です。登山中級レベルはコースタイムと同等です。

Q: 走ることはあるの?

A: 走りません。

Q: 昼食の時間はあるの?

A: 10分以上の休憩はほとんどありません。手軽に補給できる行動食を持参ください。ゼリー、小さなおにぎり、パン、カットフルーツなどで食べ慣れたものがおすすめです。過去に幕の内弁当を持参して参加された方がいましたが食べることはできなかったです。

Q: トレッキングポールは使っていいの?

A: 使用を推奨しています。ご使用の際は後ろの方に当たらないように注意してください。

Q: ペースについていけなくなったら?

A: 来た道を戻ったり、エスケープルートを利用して下山します。勝手にひとりで戻るという判断はせず、必ずガイドまたは添乗員の指示に従ってください。

Q: 合否はいつわかるの?

A: 当日中にわかります。登山上級や中級に適しているかを当日のガイドが総合的に判断いたします。

Q: 判定の有効期限は?

A: 1年間有効です。

Q: 合格のコツは何ですか?

装備の軽量化、効率的な水分とエネルギー補給です。

10年ほど装備を買い換えていない方は、登山ショップに行って最新の軽量装備を一度見てみてください。判定ツアーだけでなく、普段の登山も変わると思います。軽量化は駅前のコインロッカーなども有効活用してください。トレッキングポールはバランス保持と疲労度の減少におすすめです。

水分補給はハイドレーションがおすすめです。

Q: 普段どんなトレーニングをすればいいの?

A: 山に登ることが一番ですが、なかなかそれも難しいと思います。関節にあまり負荷のかからない自転車や水泳などはおすすめです。

Q: 私でも合格できますか?

A: わかりませんが、ご不安でも実際に一度参加してみることをおすすめします。過去に不合格となった方でも、きちんとトレーニングを積んで3ヶ月後に再度参加し合格となった方もいらっしゃいます。

Q: 過去に不合格となった例は?

A: ご自身でリタイアされることがほとんどです。疲労、足攣り、膝の痛みなどが多いですが、心拍数が上がりすぎて危険と思われる方や、ご体調がすぐれない方などもいらっしゃいます。

なお、不合格となる方にはいくつか特長があります。

  • 装備が昭和から変わっていない
  • 服装や登山靴がピクニックレベル
  • 最近運動を全くしていない
  • 判定ツアーということを知らずに参加した

◆最後に

体力判定ツアーは、参加されるまでは不安だったものの、終わってみると楽しかったと喜んでいただけることが多いです。

実際に、以下のような前向きなご意見もいただいております。

・登山中の自分の課題がわかってよかった

・これぐらいのペースが自分にとってはちょうど良いと思った

・自分の健康診断や定点観測だと思って参加している

なお、体力判定ツアーは、日帰りで行われます。しかし登山上級レベルの山々は日帰りでは行くことができない山がほとんどです。体力判定ツアーに参加された翌日もしっかり動けるかどうかもご自身でご判断いただき、目標とする山を楽しんでいただければと思います。

体力判定ツアーや、その先の目標としている山で皆様とお会いできることを楽しみにしております。

登山ガイド 北川貴章